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横浜地方裁判所 平成10年(わ)238号 判決 1998年5月21日

主文

1  被告人Aを懲役二年六月及び罰金三〇万円に処する。

同被告人に対し、未決勾留日数のうち、その一日を金五〇〇〇円に換算して右罰金額に満つるまでの分を、罰金刑に算入する。

同被告人に対し、この裁判が確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

同被告人から金二五万六七〇〇円を追徴する。

同被告人に対し、仮に右追徴に相当する金額を納付すべきことを命ずる。

2  被告人Bを懲役二年六月及び罰金三〇万円に処する。

同被告人に対し、未決勾留日数のうち、その一日を金五〇〇〇円に換算して右罰金額に満つるまでの分を、罰金刑に算入する。

同被告人に対し、この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

同被告人から押収してあるアメリカ通貨一八〇〇ドル(<省略>)を没収する。

3  被告人Cを懲役二年六月及び罰金三〇万円に処する。

同被告人に対し、未決勾留日数のうち、その一日を金五〇〇〇円に換算して右罰金額に満つるまでの分を、罰金刑に算入する。

同被告人に対し、この裁判が確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

同被告人から押収してあるアメリカ通貨一八〇〇ドル(<省略>)を没収する。

同被告人から金六四一七円を追徴する。

同被告人に対し、仮に右追徴に相当する金額を納付すべきことを命ずる。

理由

(罪となるべき事実)

被告人三名は、大韓民国釜山港から本邦横浜港へ航海する大韓民国船籍コンテナ船甲号に船員として乗り組むものであり、同船は平成一〇年一月二五日午前九時ころ静岡県榛原郡御前崎町御前崎一五八一番地所在の御前崎灯台から真方位一三四度、約一八海里の本邦領海内に入ったものであるが、被告人三名は、共謀の上、営利の目的で、釜山港において、フィリピン共和国の国籍を有する外国人であって入国審査官から上陸の許可等を受けないで本邦に上陸する目的を有するXら四名を右甲号に乗船させてバウスラスタールームにひそかにかくまい、釜山港から出航した同船が前記のように本邦領海内に入るころまで右四名を同室にかくまい続け、もって、被告人らの管理の下にある集団密航者を本邦に入らせた。

(証拠)<省略>

(事実認定の補足説明)

被告人Cの弁護人は、同被告人の本件行為は幇助犯にすぎない旨主張する。

前掲関係各証拠によれば、被告人Aは、平成一〇年一月二二日ころ、釜山港に停泊中の甲号船内において、密航ブローカーから、四名を一人宛一五〇〇ドルで密航させてもらいたい旨の話を持ちかけられ、一人では四名も運べないので、以前にも一緒に密航を手引きしたことのある同僚の被告人C、同Bに相談したこと、被告人Cは、当初ちゅうちょはしたものの、結局密航者をバウスラスタールームにかくまうことで納得し、被告人Bとともに被告人Aに協力することになり、密航者を乗船させるために必要な自己のショアパス(乗員上陸許可書)を被告人Aに渡したこと、その後、甲号船内の被告人Aの部屋に被告人三名が集まり、被告人Aが密航ブローカーから受け取った報酬六〇〇〇ドルから飲み代などを差し引き、被告人Aが二〇〇〇ドル、被告人Bが一八〇〇ドル、被告人Cが一八五〇ドルをそれぞれ受け取って分配したこと、被告人らは、同月二六日午前三時三〇分ころ、密航者らを横浜港で下船させやすくするため、密航者らを船内のバウスラスタールームからCO2ルームに移動させたが、その際、被告人Aが密航者らをバウスラスタールームから連れ出して誘導し、被告人Cが他の船員に見つからないよう見張りをし、被告人BがCO2ルームの扉を開けて密航者らを誘導したことなどの事実が認められる。

以上の事実からすれば、被告人Cは犯行の全貌を把握した上、これに加担する意思で本件犯行を遂行するのに不可欠な行為を分担しており、しかも犯行の報酬も他の被告人とほぼ同額を受け取っているのであるから、自ら正犯として本件犯行に関与したことは明らかである。よって、弁護人の主張は採用できない。

(法令の適用)

罰条 刑法六〇条、出入国管理及び難民認定法七四条二項、一項

未決勾留日数の算入 刑法二一条

執行猶予 刑法二五条一項

没収(被告人B及び被告人C) 刑法一九条一項三号、二項本文

追徴(被告人A及び被告人C) 刑法一九条の二、一九条一項三号(追徴すべき二〇〇〇米ドル、五〇米ドルの価額については、被告人らがこれらを取得した日である平成一〇年一月二三日の為替レート、すなわち、一米ドル一二八円三五銭にて算出)

仮納付(被告人A及び被告人C) 刑事訴訟法三四八条一項

訴訟費用の不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書

(量刑の理由)

本件は、韓国籍のコンテナ船の船員であった被告人らが、営利の目的で、フィリピン人密航者四名を同船に乗船させてかくまい、本邦に密入国させたという事案である。

動機が報酬を得る点にあったこと、密航ブローカーが関与していることなどからして、その犯情は悪質であり、近年船舶による密航事件が急増している折から、被告人らの刑事責任は軽くはない。

しかしながら、本件は密航者が比較的少数にとどまっていること、被告人ら自身は前記のように報酬目当てで本件を引き受けたのであって、密航ブローカーの組織に属しているような証拠は認められないこと、被告人らには本邦における前科前歴がないこと、被告人らが反省の情を表していることなど、被告人らに対して酌むべき事情も認められるので、被告人らに主文の刑を科した上、懲役刑については今回に限りその執行を猶予することとした。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中西武夫 裁判官 佐藤正信 裁判官 小島しのぶ)

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